3年ぶり急騰の後にジャクソンホールの逆風

ビットコイン(BTC)は前週後半から上昇基調を強め、一時80,000ドルの大台を突破した。8月23日までの1週間の上昇率は23%に達し、複数の報道はこれを約3年ぶりの大きさと伝えている。円建てでも大幅に上昇し、暗号資産市場への資金流入が鮮明となった。
上昇の起点となったのは、米財務省が8月19日に発表した長期国債の買い戻し拡大である。1回あたりの買い入れ上限を従来の20億ドルから少なくとも40億ドルへ引き上げる方針が示され、米金利が低下。利息を生まないBTCの相対的な投資魅力が高まった。米国の現物ビットコインETFにも週間で約19億ドルが流入し、2025年10月以来の高水準となった。68,000ドルを割り込んでいた水準からの急反発だったことも、上昇率を押し上げる要因となった。
材料はほかにもあった。スコット・ベッセント米財務長官が、イランの金融ネットワークや暗号資産を含むデジタル資産への制裁強化方針を示したことで、制裁回避を目的とする資金が暗号資産市場へ流入するとの思惑も一部で広がった。
一方、80,000ドルを突破した後は上値の重い展開となった。急騰後の利益確定売りに加え、8月28日の月末オプション満期に向けて80,000ドルの権利行使価格に建玉が積み上がっていたことも、上値を抑える要因となった。
さらに、ジャクソンホール会議でFRBウォーシュ議長が物価を最優先課題に挙げ、利上げの可能性を意識させる発言を行うと、9月の早期利上げ観測から米金利が上昇。米10年債利回りは一時4.69%まで上昇し、週末にかけてBTCは77,000ドルを一時割り込んだ。週間では3年ぶりの大幅高となったものの、米金融政策に振らされる不安定な相場でもあった。
直近の重要経済指標・暗号資産イベント

ミームコインで発行者と宣伝者が一体化
2024年以降、この構造をさらに先鋭化させたのがミームコインである。トークンの発行や流通に必要な技術的ハードルが大きく下がり、著名人やバイラルコンテンツの発信者自身が、自らの名前やキャラクターに関連するトークンを容易に立ち上げられるようになった。
ミームコインには、株式における企業価値やキャッシュフローのような一般的な評価軸がほとんど存在しない。価格を支えるのは、コミュニティーの熱量、SNSでの拡散力、そして「さらに高い価格で買う人が現れる」という期待である。その性質上、発行者、宣伝者、初期保有者の利害が極めて接近しやすい。
「Hawk Tuah」の流行から生まれたHAWKトークンは、2024年12月の公開直後に急騰したものの、その後価格が9割以上下落した。先行保有者や自動売買を行う「スナイパー」の取引、トークン配分の透明性などを巡って疑念が広がった。個別の違法行為をただちに断定できる事例ではないが、「誰が、どの価格でトークンを取得し、いつ売却できたのか」という暗号資産市場の根本的な問題を改めて浮き彫りにした。
業界メディアCoinwireが2024年11月に公表した調査では、377人のインフルエンサーが推奨した1,567種類のミームコインのうち、86%が3ヵ月以内に価値の90%を失ったとされる。調査対象や算出方法には留意する必要があるものの、少なくともインフルエンサーの知名度と、その後の投資成果が必ずしも一致しないことを示す材料ではある。
さらに2025年9月には、オンチェーン調査者のZachXBTが、あるプロジェクトから宣伝を打診された200超の暗号資産インフルエンサーについて、宣伝価格やウォレットアドレス、支払い記録などをまとめた資料を公開した。
本人によれば、依頼を受けた160超のアカウントのうち、広告であることを明示した投稿は5件未満だったという。公開された資料については個別に検証する必要があるが、暗号資産のインフルエンサーマーケティングが、一つの産業として成立している実態を可視化した出来事だった。
規制が進んでも「推し銘柄」は消えない
日本でも、広告と個人の発信を巡る規制は強化されている。
2023年10月には、広告であることを一般消費者が判別しにくいステルスマーケティングが、景品表示法上の不当表示として規制対象となった。
インフルエンサーによるSNS投稿であっても、事業者側が投稿内容の決定に関与している場合などには対象となり得る。一方、規制の主な対象となるのは広告主である事業者であり、投稿者本人を直接処罰する仕組みとは異なる。
金融分野でも、SNSを利用した無登録の投資助言や、著名人を装った詐欺的な投資勧誘について、金融庁は繰り返し注意喚起を行ってきた。
しかし、日常的な相場コメントと、規制対象となる投資助言や広告との境界が常に明確であるとは限らない。
「個人的な感想」「自分は買っている」「コミュニティー向けの情報共有」といった形式で発信されれば、外部から広告性や経済的な利害関係を判断することは難しくなる。
2026年には暗号資産を巡る金融商品取引法制の整備も進み、発行者などによる情報開示や、無登録業者への対応、不公正取引規制など、市場の公正性を高めるための枠組みが拡充される方向にある。
それでも、法律だけですべての「推し銘柄」を捕捉することは難しい。
報酬が法定通貨ではなくトークンで支払われる場合や、プロジェクトと発信者の間に複数の仲介者が存在する場合、広告と自然な投稿を外部から完全に区別することは容易ではないからだ。
みるべきは発言よりも「ポジション」
ICO、DeFi、NFT、ミームコイン、プロダクトサービス。
時代ごとに市場のテーマは変わってきたが、問題の本質は大きく変わっていない。
重要なのは、発信者が一般投資家より早く、安く、そして売却しやすい条件で資産を取得していないかという点である。
その事実を知らないフォロワーが発信を信じてトークンを購入すれば、市場にはあらたな流動性が生まれる。その流動性が、初期保有者にとって利益確定の「出口」となる可能性がある。
投資家が確認すべきなのは、「PRと表示されているか」だけではない。
発信者やプロジェクト関係者がトークンを保有しているのか。どの程度の価格で取得したのか。ロックアップや売却制限は存在するのか。今後、大量のトークンが市場へ放出される予定はないか。
オンチェーン上で確認できるのであれば、大口ウォレットへの保有集中、初期配布先から取引所への送金、流動性の厚さなども重要な判断材料になる。
暗号資産市場では、「誰が何をいったか」と同じか、それ以上に、「その人物がどのようなポジションを持ち、いつ売却できるのか」をみる必要がある。

物語が「ブロックチェーン革命」から「DeFi」「NFT」、そして「ミーム」「プロダクトサービス」へ変わっても、宣伝によって買い手を集め、その後に先行保有者が売却するという構造は何度も繰り返されてきた。
開示された情報を自分で検証し、「推し」と「投資判断」を切り分けること。
それは現在も、暗号資産市場で自分の資産を守るための、最も安価で強力な防御策の1つである。