Q1. 金融危機時のPBR下限基準と修正PBRについて
【質問】 リンチチャートの話でPBRの下限基準が金融危機時のPBRの値という下りがありました。 これは修正 PBR のことなんでしょうか(昔の会社四季報を参照するとPBR の値はわかるのですが)、例えば2026年の時の不動産含み益と金融危機時の不動産含み益はまた別になると思うんですがどのようにお考えでしょうか。
【回答】 ご質問ありがとうございます。 おそらく、書籍第3章のP150~151で「リーマンショック前後の株価水準をPER・PBRラインの下限に設定しておけば、「株価が極端に割安だったときの水準」の目安になります。」と説明した部分をご覧になってのご質問かと思います。ご指摘のように「そのPBRは通常のPBRなのか、それとも修正PBRなのか」という点は、少し簡略化して書いたため、分かりにくかったかもしれません。
実際には、私はすべての会社で一律に通常のPBRや修正PBRを使っているわけではなく、会社の業態によって使い分けています。例えば、賃貸等不動産の含み益が企業価値に大きく影響する会社では、通常のPBRでは実態を十分に表せないため、修正PBRを用いて評価しています。一方、そのような影響が小さい会社では、通常のPBRだけでも十分に過去の評価レンジを把握できることが多いです。
また、ご質問にある「現在の不動産含み益と金融危機時の不動産含み益は違うのではないか」という点ですが、ご指摘のとおりです。そのため、現在の含み益を過去に当てはめるような計算はしていません。私は、各時点の有価証券報告書に記載されている数値を用いて、その当時のPBRまたは修正PBRを算出しています。例えば、現在の修正PBRは最新の有価証券報告書から、金融危機時の修正PBRは当時の有価証券報告書から、それぞれの純資産や賃貸等不動産の時価などを用いて計算しています。
なお、賃貸等不動産の時価が有価証券報告書で開示されるようになったのは2010年3月期以降です。そのため、それ以前まで遡って長期比較をしたい場合には、修正PBRではなく通常のPBRを参考にすることもあります。 過去の有価証券報告書は各社のIRサイトで確認できる場合もありますが、掲載がない場合は「株主プロ」というサイトを利用しています。ここでは2005年10月1日以降に開示された有価証券報告書等を確認できますので、過去の数値を調べる際によく利用しています。
鋭いご指摘ありがとうございました。実際に本書の内容を再現しようと読み進めていただいたからこその疑問だと思います。私自身は、普段はこのように会社ごとにPBRと修正PBRを使い分けながら評価しています。
Q2. ピーターリンチチャートの本質とヒストリカルPER・PBRについて
【質問】 ピーターリンチチャートの本質は銘柄毎のヒストリカルPER,PBRを見て、ヒストリカルマルチプルの平均値より大幅に低くなっているときに買って上限近くまで上がったら売るという理解で合ってますか?
【回答】 ご質問ありがとうございます。 書籍第3章P133~135のピーター・リンチチャートに関するご質問かと思います。 結論から申し上げると、概ねそのご理解で問題ありません。ピーター・リンチも「株価がアーニングスラインを大きく下回ったときに買って、そのラインを大きく上回ったときに売れば、かなり良いリターンが得られる可能性が高い」と述べています。私も基本的な考え方は同じで、各銘柄のヒストリカルPER・PBRを確認し、過去の評価レンジと比較して十分に割安な水準で買い、評価が上限付近まで戻れば売却を検討するという理解で問題ありません。
ただし、それだけで機械的に判断しているわけではありません。企業の成長性や財務体質が大きく変化すると、過去のPER・PBRレンジ自体が通用しなくなることがあります。例えば、成長性が低下した結果、適正PERそのものが下がってしまえば、「PERが低いから買い」と判断すると失敗する可能性があります。ですので、その企業の成長性や財務体質などに大きな変化がないかを確認し、過去の評価レンジが現在でも妥当かを見極めることも重要です。
なお、本書で特にお伝えしたかったのは、「株価ではなく企業価値を見る」という考え方です。 株価チャートだけを眺めていても、その会社の実態は分かりません。本来見るべきなのは、売上や利益、純資産、キャッシュ、受注残高など、企業価値を構成するさまざまな指標です。株を買うということは、値動きする紙切れを買うのではなく、その背景にある企業の所有権の一部を買うことだからです。
その意味で、ピーター・リンチチャートの価値は、PERやPBRだけではなく、1株当たりの保有現金や受注残高など、さまざまな企業価値指標と株価を時系列で比較できる点にあります。
『テンプルトン卿の流儀』という本によれば、テンプルトン卿は、「PERといったひとつの視点だけでなく、価値をとらえる数多くのさまざまな視点を維持することの重要性」を強調し、「銘柄の価値判断のために使える価値尺度は一〇〇ほどある」と常々口にしていたそうです。
PERやPBRだけにとらわれず、さまざまな企業価値指標と株価を比較しながら、「会社の価値」と「株価」のギャップを考えるツールとして活用していただければと思います。
Q3. リンチチャートでの買い判断タイミングと販売用不動産の調整について
【質問】 リンチチャートのどの辺で買い判断をされますか?例えば、住友不動産は今PBRの平均少し下だと思うのですが、底まで必ず待ってから買われますか? 不動産業について、販売用不動産を非事業用資産に入れた場合は、営業利益からは不動産販売の利益を除いて計算されますか。また、他にそのような調整をされている業種などありますか?
【回答】 ご質問ありがとうございます。順番にお答えします。
まず買い判断ですが、書籍第3章P132〜135で解説したリンチチャートは、資産バリュー株投資の4ステップ(第2章P70)のうち「ステップ3:相対的な企業価値の算出」に該当するツールです。基本はP60〜61で書いたようにPBR下限ライン付近まで待ちたいと考えていますが、過去の下限時と現在で会社の状況が変わっていないかも確認します。例えば株主還元姿勢が明確に改善している場合などは、過去と同じ水準まで下がる可能性は低く、下限より上でも十分に割安と判断して購入することがあります。一方で、過去より高い評価水準で買う以上、損失の可能性も高くなるため、その分慎重に判断します。
また、私の投資では、書籍の「ステップ2:絶対的な企業価値(内在価値)の算出」(第2章P70〜)を優先しています。内在価値と現在の株価との乖離が非常に大きい場合には、リンチチャートの位置よりも、企業価値評価を重視して判断することもあります。
次に販売用不動産についてですが、ご理解のとおりです。書籍第2章P109「不動産事業以外の営業利益を使う」でも触れていますが、販売用不動産を非事業用資産として資産価値に含める場合、不動産販売利益まで事業価値として評価すると二重計上になるため、営業利益から除外しています。他業種でも、資産価値と事業価値が重複する場合は同様の調整をします。
なお、私のこの手法は、実質的には「サムオブザパーツ(SOTP)」と呼ばれる企業価値評価手法と同じです。事業ごと・資産ごとに分けて価値を積み上げる考え方で、生成AIに「この銘柄をサムオブザパーツで分析して」と依頼すると、重複排除も含めて整理してくれるので、他業種の調整を検討する際にも参考になるかと思います。
Q4. 内在価値計算における売掛金や有利子負債の扱いについて
【質問】 企業の内在価値を計算するときに現金化しやすい売掛金を入れないのはどうしてですか?1年以内に満期が来る有価証券を計算に入れるなら入れるのが自然だと思いました。また総負債を引かないで有利子負債だけを引く理由を教えてください。
【回答】 これは、「会社の価値とは何か」を考えるうえで、とても本質的なご質問です。 まず、「株を買う」とは何かを考えてください。株を買うということは、その会社の所有権の一部を買うことです。ですから、企業価値を評価するときは、「もし自分がこの会社を丸ごと買収するなら、いくら払う価値があるか」という、事業家・M&Aの買い手の目線で考えます。
このとき重要なのは、「事業」とは、工場や店舗、設備、人材、ブランド、売掛金や棚卸資産など、さまざまな要素が有機的に一体となって継続的に利益を生み出す仕組みだということです。そのため、事業価値は個々の資産の合計ではなく、事業全体が生み出す利益を基に評価します。
会社は次の3つに分けて評価します。
① 事業そのもの
② 事業に必ずしも必要でない余剰資産(現金、投資有価証券、賃貸等不動産など)
③ 引き継ぐ借金(有利子負債)
買収する側は、①の利益を得ながら、②の資産は売却して現金化でき、③の借金は返済しなければなりません。ですから、内在価値=①+②-③となります。この考え方は、M&Aや企業価値評価の実務でも一般的です。
一方、PERやPBRは企業価値を大まかに把握するには便利な指標ですが、企業価値そのものは表しません。例えば、同じPER10倍でも、無借金で現金の多い会社と借金だらけの会社では、丸ごと買収したときの価値は大きく異なります。この違いまで評価するため、私は事業価値・非事業用資産・有利子負債を分けて企業価値を算出しています。
売掛金や買掛金、棚卸資産などは、事業を回すために必要な運転資本で、事業を構成する要素です。第2章P108のとおり、営業利益を基に事業価値を算出する時点で、これらを含む事業全体を評価します。別途加えたり差し引いたりすると二重計上になります。
一方、総負債のうち有利子負債だけは、事業を構成する負債ではなく、資金調達による負担なので、事業価値とは別に控除します。現預金や1年以内満期の有価証券は、事業から切り離しても独立した価値を持つ余剰資産なので、②として加算します。
つまり、「現金化しやすいかどうか」ではなく、「事業を構成する要素として一体で評価すべきものなのか、事業から切り離しても独立した価値を持つ資産・負債なのか」と考えると、ご理解いただきやすいと思います。
Q5. ポジションサイズの決め方とナンピンの基準について
【質問】 ・複数ある選択肢がある中でのポジションサイズの決め方 ・ナンピンする場合の基準やルール(買値からX%下がったらどX追加など) について実践されている事、心がけなどがございましたら、ご紹介いただけるととても参考になります。
【回答】 ご質問ありがとうございます。私の基本思想は、「株価ではなく、自分が算出した企業価値を基準に、ポートフォリオ全体の価値を最大化する」ことに尽きます。
まずポジションサイズについてです。定期的にポートフォリオ全体を見直し、各銘柄の企業価値と株価との乖離で調整します。乖離が大きい(割安度が高い)銘柄はポジションを大きく、乖離が小さくなった(割安度が低くなった)銘柄は小さくします。株価が動いても、それだけで企業価値が変わるわけではありません。むしろ企業が利益を積み重ねれば、企業価値は着実に増加していきます。「1銘柄で全体の5%以下」といった分散ルールは設けておらず、確信があれば特に魅力的な数銘柄に資産の大部分が集中することも多々あります。バフェットも2008年の株主総会で「少なくとも純資産の75パーセントをひとつのアイデアに投入したことが、かなりの回数あった」と語っています。
次にナンピンについてですが、こちらも明確な基準は設けていません。損切りという発想もなく、企業価値が変わらないなら、株価が下がるほど割安になり期待リターンは高まるため、むしろポジションを増やす方向です。実際には5~10%下落で1億円追加、さらに同程度下落でもう1億円、といった形で買い増すこともありますが、あくまで他の保有銘柄と比較して相対的に魅力的かどうかで判断するので、機械的に下がったら買い増すわけではありません。
こうした判断の根底にあるのは、株価はグレアムのいう「ミスター・マーケット」が毎日気まぐれに提示してくる値段に過ぎず、それだけで会社の価値まで毎日変わるわけではない、という考え方です。実際、資産5,000万円の頃でも、自分では「すでに1億円を超えた」と考えていました。数年後、株価も結果的にその水準まで近づきましたが、それは結果論に過ぎません。この手法が機能するには企業価値を正しく把握することが不可欠で、書籍で多くのページを割いているのもそのためです。
結局、ポジションサイズもナンピンも、最も価値が高いと考える企業へ資金を配分し、ポートフォリオ全体の価値を最大化するための手段です。それさえできていれば、株式市場が10年間閉鎖されても、株価が上がっても下がっても、あるいは日々株価を確認しなくても、本質的には大きな問題ではない、と考えています。
Q6. AIなどの時代の流れや国策といったテーマの加味について
【質問】 シケモクさんのやり方は現時点での株価が割安なのか割高なのか判断するということだと思います。その時に時代の流れ(今だとai 、データセンター関連など)にあっているから、とか国策だから、とかいうことは加味するのでしょうか?
【回答】 ご質問ありがとうございます。 私は、AIやデータセンター関連、国策といったテーマそのものを理由に投資判断をすることはありません。書籍第5章P207でも書きましたが、私はAI株や資源関連株など、その時々の注目株やテーマ株にはほとんど関心がありません。注目されている銘柄は、多くの投資家が分析しているため、企業価値が株価に織り込まれ、割高になっていることも多いと考えているからです。Xなどで話題になっている銘柄や、「有望だ」と聞いた銘柄をそのまま買ったことも一度もありません。
もちろん、投資法に正解はありません。人気や需給を重視する投資法もあれば、テクニカル分析を重視する投資法もあります。ただ、私は「人は自分が本当に納得し、面白いと思えるやり方でしか、長期的には成功できない」と考えています。
私が30代後半で会社員を続けながら司法試験に合格したときも、予備校には通わず、模試も一度も受けず、基本書を徹底的に読み込み、本質を理解することに集中しました。周囲と同じことをするのではなく、自分に合ったやり方を貫いたことが結果につながったと思っています。この経験は、今も投資判断の根底にあります。
株式投資も同じです。私はグレアムやバフェット、マンガーらが築き上げたバリュー投資の考え方を学び、それを自分なりに咀嚼して実践しています。テーマ株や人気株を追うことはありませんし、テクニカル分析も基本的には重視していません。
まず企業価値を正しく把握し、十分な安全域が確保できる銘柄を見つけることが第一です。そのうえで、AIなどのテーマによって今後の業績が伸びると判断できるのであれば、それは企業価値を考える材料の一つとして考慮します。ただ、その影響は投資判断全体から見れば5~10%程度で、あくまで付随的なものです。
結局、私が見ているのは「AI関連かどうか」ではなく、「会社の価値が株価を大きく上回っているかどうか」です。テーマは時代とともに変わりますが、「会社の価値を考える」という投資の本質は変わらないと考えています。
Q7. 書籍の次のステップとしておすすめの投資本について
【質問】 素晴らしい著書を出版いただき、ありがとうございます。資産バリュー株投資家として実力をつける為に、シケモクさんの著書を読み終わった次のステップとして、どのような書籍を読むと良いでしょうか?おすすめの書籍があれば教えてください。
【回答】 ご丁寧なメッセージをありがとうございます。書籍版とKindle版の両方をご購入いただき、何度も読み返していただいているとのこと、大変うれしく思います。 拙著の次のステップとしては、有価証券報告書の読み込みやリンチ・チャートの作成を続けながら、企業価値評価とバリュー投資の考え方をより深く学ぶのがおすすめです。
企業価値評価については、まず『図解でわかる企業価値評価のすべて』(KPMG FAS、日本実業出版社)がおすすめです。マーケット・アプローチ、インカム・アプローチ、コスト・アプローチという3つの評価手法を軸に、企業価値評価の基本を図解で整理した入門書で、事業価値と非事業資産を分けて考える発想も本書とも重なります。
次に、『コーポレートファイナンス 戦略と実践』(田中慎一・保田隆明、ダイヤモンド社)です。分厚い本ですが、DCF法やマルチプル法による企業価値算出、資本コスト、株主還元、IRまで実務家と学者が具体例とともに解説しており、資本コストやWACCなど数値面の説明がとても丁寧なのが印象的でした。分厚さの割に、決して難しい本ではありません。
バリュー投資については、『ウォーレン・バフェット 投資家に贈った全言葉』(アレックス・W・モリス、KADOKAWA)を特におすすめします。1994年から約30年分の株主総会での質疑応答から500件を厳選収録したもので、株主総会でのバフェットとマンガーの率直な口頭のやり取りの中から学べることが多いです。「評価と本質的価値」「ミスター・マーケット」といった章立てで、生の言葉から投資の本質を学べる一冊です。
また、『とびきり良い会社をほどよい価格で買う方法』(チャーリー・ティエン、パンローリング)もおすすめです。ピーター・リンチチャートについても触れられており、ディープバリュー投資の問題点も解説されているため、資産バリュー投資をより客観的な視点から考えるうえで参考になると思います。
ぜひ、書籍で考え方を学びながら、実際の企業を分析することも並行して進めてみてください。理論と実践を繰り返すことで、理解は一段と深まると思います。
Q8. 非上場の関係会社株式の評価方法について
【質問】 83ページ付近の「子会社・関連会社株式の評価」について質問があります。 書籍ではTBSのWOWOWが例に挙げられていますが、関係会社株式が非上場の場合はどのように評価すればよいのでしょうか。安全側に立ってゼロ評価と考えるべきか、一定の方法で価値を見積もるべきでしょうか。具体例としてGunosyが持つ非上場のSLICE(IPOを目指す)などがあります。
【回答】 ご質問ありがとうございます。 私の基本的な考え方としては、非上場株式はBS計上額で評価するのが原則です。BS計上額は会社が毎期評価し、監査も経たうえで計上されているため、分析の出発点としては十分信頼できる数字だと考えています。実際、Gunosyの投資有価証券も、有価証券報告書のKAM(監査上の主要な検討事項)として取り上げられており、監査法人も重要な監査項目として検討しています。
一方で、ご質問の事例のように、本体の時価総額に対して無視できない規模の非上場株式を保有し、相当な含み益もあり得る場合には、BS計上額だけに依拠するのではなく、公開情報などを基に自分でも価値を検討する必要があるだろうと思います。ただ、非上場企業の情報は限られており、どこまで価値を検討できるかは、入手できる情報に大きく左右されます。さらに、増資等で評価額が分かっても、それは一時点の取引価格にすぎず、特にスタートアップでは将来の収益力を含めた本質的価値を安定して見積もることは容易ではありません。
そのため、公開情報などから非上場株式の価値をある程度合理的に推定できるのであれば、その分を企業価値に反映させます。一方で、十分な精度で見積もれない場合には、BS計上額を基準に評価する、あるいは推定した価値を大きく割り引いて評価するなど、保守的に企業価値を考えます。そのうえで、十分な安全域があり、下値が限定されていると判断できるのであれば、投資対象になり得ると考えています。
私は、企業価値を十分な精度で把握できるかどうかを、投資判断において非常に重視しています。マンガーは、「私たちには『買う』『買わない』『難しすぎる』という3つのカゴがある。特別な洞察がなければ、『難しすぎる』のカゴに入れる。」と述べています。また、バフェットも、「私は7フィートのバーを飛び越えようとはしない。楽にまたげる1フィートのバーを探す。」と語っています。両者に共通するのは、無理に難しい投資へ挑むのではなく、自信を持って安全だと言い切れる投資先だけを選ぶという考え方です。
したがって、企業価値の大半が評価の難しい非上場株式に依存しており、その価値を見積もらなければ投資判断ができないような場合には、私にとってはマンガーのいう「難しすぎる(Too Tough)」な企業であり、見送ることがほとんどです。
Q9. 金利上昇や災害(地震)が不動産株に与える影響について
【質問】 金利上昇や地震などの災害は住友不動産などにはかなりデメリットが大きいかと思いますが、このような外部環境はどのように考えていらっしゃいますか?
【回答】 書籍P34で述べた通り、私は基本的に「マクロ経済は無視し、個別株の評価のみに注力する」スタンスで、将来予想に基づく取引はほとんどしません。金利や地震の将来予測は困難です。マンガーも「マクロ的な要因について不可知論者となり、個々の事業について考えることに時間を捧げるほうが、はるかに効率的だ」と述べています。
一方、金利上昇や地震は不動産会社に大きな悪影響を与えうるので、予想できないにせよ、影響の大きさを数字で見積もることは重要です。
金利上昇については書籍P179でも触れていますが、借入金は長期固定金利が大半で、インフレに伴う賃料上昇の恩恵も大きく、政策保有株式の売却で金利上昇コストが相殺されるため、好業績が続く可能性が高いと考えています。数字で見ると、住友不動産の前期実績は、不動産含み益の増加(BS)が+2,645億円、賃貸セグメント利益の増加(PL)が+215億円だったのに対し、支払利息の増加は▲68億円でした。BS・PLとも金利上昇の負担を十分上回る恩恵を受けているのが実態です。今後さらに金利が上昇しても、この優位性は簡単には揺らがないと考えています。
なお、マンション販売でも住宅ローン金利の影響が懸念されがちですが、日経新聞の調査では都心タワマン最上階の約6割が現金一括購入とされ、大手不動産会社が扱う高額帯の主な購入者は住宅ローンにあまり依存しません。実際、住宅価格は住宅ローン金利より株価との相関の方が高いとの分析もあり、ローン金利より株価上昇の資産効果の方が購買力への影響は大きいと考えられ、この面でも影響は限定的とみています。
地震リスクについては、REITで開示されるPML(50年に10%の確率で起こる大地震での、再調達価格に対する復旧費用の割合)を見ると、都心オフィスビル主体の日本ビルファンドの平均は1.7%でした。これを参考に概算すると、住友不動産の関東大震災級の損害額は、賃貸等不動産時価8.9兆円×建物割合40%(概算)×PML1.7%≒約600億円と概算されます。これは内在価値の1%未満、営業利益比でも5分の1程度です。実際、三菱地所の社史によれば、1923年の関東大震災でも、竣工間もない丸ビル等の三菱グループのビルは大きな被害を免れ、避難所としても活用されたそうです。
Q10. Python等での自動化の優先順位について
【質問】 Pythonの記述が散見されますが、自動化にあたってどういう優先順位でスクリプトで自動化していくのがおすすめでしょうか?
【回答】 ご質問ありがとうございます。 結論から申し上げると、おすすめの優先順位・注意点は次の4点です。
① 自動化自体を目的化せず、難易度も踏まえたうえで、自分の投資法で本当に必要なものから着手する
② 手作業で繰り返している作業を優先的に自動化し、効率化とミス削減を図る
③ 少量のデータ処理は生成AIで十分だが、約4,000社の継続的な大量処理はPythonなどで自動化する
④ コードを書く時間は短縮できても、「正しく動作し正しい結果が得られているか」の検証には依然として多くの時間がかかると心得る
以下、なぜこの順序になるのかを補足します。
①について。私自身、最初から全てをPythonで自動化していたわけではなく、かつては有価証券報告書1000社分を手作業でデータ化していました(書籍P14〜15、P71)。生成AIで簡単にスクリプトが作れる今、つい何でも自動化したくなりますが、目的はあくまで投資判断に役立てることです。既存ツールで足りるなら無理に作る必要はありません。私の場合、書籍P37の計算式で全銘柄を計算したかったものの既存ツールでは困難だったため、やむを得ず自動化しました。難易度にも差があります。現預金や有利子負債などBSの基本数値はXBRLでタグ付けされ抽出は容易ですが、賃貸等不動産や関係会社株式の簿価・時価はタグがなく、銘柄ごとに形式の異なるHTMLの表から抽出するため、何度も試行錯誤が必要です。この難易度差は着手順を考えるうえで必ず踏まえるべき点です。
②③について。何度も手で繰り返す作業ほど自動化の効果(時短・ミス削減)が大きく優先度が上がります。一方で一度きりの少量処理なら生成AIに都度頼む程度で十分なことも多く、約4,000社の継続処理となると手作業では回らないためPython化が必要になります。
④について。ソフト開発は7割以上がデバッグで、コーディングは3割程度とよく言われます。生成AIが効率化するのは主にコーディングの部分で、狙い通り動くまでのデバッグ工数は依然大きく、軽視している方は多い印象です。リンチチャートの作成も書籍執筆後に完全自動化しましたが、エクセルとPythonの役割分担だけでも苦労しました。コードが書けたことと、正しい結果が出ることは別物だと考えておくと安全です。
Q11. リンチチャートのPBR上限・平均ラインの設定方法について
【質問】 リンチチャートの作成方法ですが、pbr下限ラインは比較的決めやすいのですが、pbr上限ライン(=平均値^2/下限値)はpbr平均ラインの置き方次第で大幅に動いてしまいます。平均ライン(および上限ライン)はどのように設定するべきでしょうか?平均ラインから推定せず上限ラインを先に決めてしまう方法だと問題がありますでしょうか。
【回答】 ご質問ありがとうございます。とても本質的なご質問です。 148ページの「上限値=(平均値÷下限値)×平均値」という関係は、評価レンジを視覚化するための一手法であり、絶対的なルールではありません。私が重視しているのは、「市場がその企業を通常どの程度のPBRで評価してきたか」が自然に表現できるかどうかです。
なお、この式を変形すると「平均値=√(上限値×下限値)」となり、平均ラインは上限と下限の“幾何平均”にあたります。つまり対数目盛のチャート上では、上限・平均・下限がちょうど等間隔に並ぶ関係です。「平均を動かすと上限が大きく動く」というより、対数目盛上で3本が等間隔になるように引く、と考えると迷いが減るかと思います。
したがって、ご質問のように上限ラインを先に決めても全く問題ありません。下限ラインと同様に上値付近を通るPBR倍率で上限を引き、その中間(対数目盛上での中間)に平均ラインを置けば大丈夫です。重要なのは計算式に合わせることではなく、そのラインで過去の株価の動きが無理なく説明できることです。
ただし、対象期間の取り方には注意しています。一時的なバブル局面やIPO直後、異常に割高だった数年間だけを基準に上限ラインを引くことはありません。逆に、業績が比較的安定し市場が正常に評価していたと思われる期間を中心に据えて引きます。
私自身は現在Pythonで自動化しており、対数正規を前提にlog(PBR)の平均値と標準偏差を算出し、平均ラインに対し上限+1σ、下限-1σで描画しています。多くの銘柄で自然なレンジになりますが、あくまで叩き台で、必要に応じ期間やラインを調整します。 また、リーマンショック前後で評価傾向が大きく変わった銘柄や、ある時点で事業内容・経営環境が大きく変化した銘柄では、分析対象期間そのものの見直しも重要です。さらにPBRにこだわる必要もなく、銘柄によってはPERや配当利回りの方が株価との相関が高いこともあります。
リンチチャートは理論値を求めるものではなく、市場が通常どの程度その企業を評価してきたかを可視化するツールですので、最も実態に合うラインや指標を採用するのがよいと思います。
Q12. 大手ディベロッパー等の内在価値(事業価値)の考え方について
【質問】 大型株と小型株で内在価値のバリュエーションの手法はかえておりますでしょうか?大型株だと非事業価値が時価総額を超えることは少なく、非事業価値/時価総額>1を基準としてしまうと買えないことが多いです。 53ページに記載があったように、不動産会社では賃貸等不動産の時価(+販売用不動産の時価)≒事業価値なので、大手ディベロッパーは事業価値もゼロに近づいてしまいそうですが、どのようなロジックで大手ディベロッパーの内在価値>時価総額と見積もっておられますか。(借金分も含めて計算すると大型株では非事業価値>時価総額となりにくいという意味です)
【回答】 ご質問ありがとうございます。 まず、大型株と小型株で算定式そのものは変えていません。変えているのは、投資判断で求める割安度です。大型株は機関投資家の分析が行き届きミスプライシングが小さい一方、小型株は流動性が低く割安が残りやすいためです。例えば時価総額1,000億円なら内在価値が2倍程度で十分魅力的でも、100億円規模では3倍程度の割安さを求めることが多いです。
大型株だと非事業価値が時価総額を超えることは少ない、という点については、その通りで、事業価値をゼロと置いて内在価値(書籍P37の式)を計算すると、なかなか割安な銘柄は見つかりません。そういう場合は、事業価値についても、SOTP(Sum of the Parts)などの手法で見積もり、事業価値を加味して内在価値を計算すると、時価総額をかなり上回る場合もあります。
どのようなロジックで大手ディベロッパーの内在価値>時価総額と見積もっているか、という点については、書籍P37の式の通り、内在価値を算出します。 三菱地所の場合は、事業価値を仮にゼロとおいても、 内在価値=事業価値0億円-非支配株主持分1881億円-有利子負債3兆5819億円+現預金2760億円+有価証券70億円+投資有価証券4308億円-繰延税金負債975億円+賃貸等不動産10兆5663億円-繰延税金負債1兆6672億円=5兆7454億円>時価総額4兆9610億円(7/17:株価4112円) となります。この計算だけでも、内在価値>時価総額になります。
ただ、書籍P53で事業価値0億円としたのは、事業価値が「賃貸等不動産の時価で評価済み」だからです。三菱地所の場合は、その事業価値が全て賃貸等不動産の時価で評価済みであるかというとそういう訳ではありません。例えば、三菱地所のBSには「エクイティ出資:1兆1213億円」という項目がありますが、この項目は上記内在価値の式では全く評価していません。また、販売用不動産等の合計6335億円も未評価です。投資マネジメント事業(営業利益150億円)・設計監理不動産サービス事業(営業利益100億円)・デベロッパーとしての開発・運営力も評価できていません。そのため、こういう要素もSOTPなどで事業価値として見積り、追加する必要があります。
Q13. 失敗からの再起と投資戦略の組み方について
【質問】 初めまして。兼業投資家の30代です。投資を始めて5年で1500万円までバリュー株投資で資産を築けましたが、そこから成長株投資、モメンタム投資を試しに行って資産20万円まで減らしてしまいました。 今一度財を作るためには月5万円入金をしつつバリュー株投資で堅実にやっていこうと思いますが、シケモクさんならどう投資戦略を組みますか?
【回答】 ご質問ありがとうございます。 私も30代で兼業投資家だった頃、資産を1,500万円から200万円程度まで急減させた経験があります(書籍P215~)。その後に考えたことを、参考までに三つお伝えします。
第一に、今回の失敗を徹底的に振り返ることです。私もリーマンショック時の失敗以降、10年以上の間、「リメンバー ジャパンホテルアンドリゾート(失敗銘柄名)」を自分への合言葉にしてきました。失敗といっても、当時としては自分の実力なりに合理的な判断をしていたはずです。それが間違っていたのはなぜなのか、はそう簡単に分析できるものではありません。なぜ成長株やモメンタム投資に移り、なぜ損失を止められなかったのか。手法だけでなく、ポジション量、焦りや過信といったメンタル的な要素、さらには根本的な投資哲学・信念といったところまで振り返る必要があります。失敗から本当に学ぶには時間がかかりますが、そこを通らずに次の成功はないと思います。
第二に、投資以外の収入も増やすことです。私は①給与、②副業、③投資を「三本の矢」と考えていました。元本が小さい間は、運用利回りを高めるより、給与や副業で入金力を高める方が、資産形成への効果は大きいことがあります。私の場合は、まず資格の取得によって②が伸び、その後は昇格などで①が増え、最後に投資元本の拡大とともに③が最も大きくなりました。30代であれば、①と②にもまだ大きな伸びしろがあります。
第三に、固定的なマスタープランを持ちすぎないことです。バフェットは「バークシャーにマスタープランはない。その時々で合理的なことをするだけだ」と述べています。相場でいつ好機が訪れるかは予測できません。「毎月5万円を入金し、バリュー株だけで増やす」といった大きな方向性を決めることは問題ありませんが、自分の投資哲学に従い、その時々の事実を見て合理的に判断する方が大切です。できることは、学び続け、判断基準を磨くことだと思います。それができれば、気づいた頃には、自分でも驚くほど資産規模が成長していると思っています(書籍P252-253)。
Q14. 含み損が気になるときのメンタル対処法について
【質問】 メンタル面で質問があります。 P179にて「有望と考えている銘柄」をいくつか購入しているのですが、現在、含み損がなかなか解消しません。「気長に待つ」の一言で済むのですが、どうしても気になってしまいます。その場合、どのようにして気持ちを逸らすのか、いい方法がございましたらお教授頂けますと幸いです。
【回答】 書籍ではメンタル面をあまり書けませんでしたが、私も含み損が全く気にならないわけではなく、合理的な投資判断を続けるために普段から意識していることが3つあります。
①買った後は一度含み損になるのが当然と考える
底値を正確に当てることはほぼ不可能です。日本を代表する投資家の一人である清原達郎氏でさえ、『わが投資術』で、逆張りで買う人は「最初は決まって損をする」と書かれています。そのうえで個人投資家への助言として「買った後、株価が下がってもくよくよしない。当たり前のことが起こっただけです」と。十分な安全域を確認して買ったのであれば、一時的な下落は想定内といえます。
②極力、株価を見ない
株価は毎日大きく動きますが、企業価値は毎日変わるわけではありません。長期的には上昇する銘柄でも、毎日株価を見ていれば、半分以上の日は失望するはずです。ガイ・スピア氏も『勘違いエリートが真のバリュー投資家になるまでの物語』で、株価はできるだけ見ないことをルールに挙げています。苦瓜達郎氏は『ずば抜けた結果の投資のプロだけが気づいていること』で、市場が総崩れになったときに買い、あとは気絶したように忘れてしまう「気絶投資法」を勧めています。悩みの原因が株価なら、解決は実はとても簡単で、株価を見なければ良いだけです。バフェットも2013年の株主への手紙で、土日に株価を見ずに過ごせるなら平日もやってみたらいい、と書いています。
③株を持つことは、事業の一部を持つこと
バフェットは同じ手紙で、1993年に買ったニューヨークの商業不動産の話も書いています。彼はこの物件を一度も見に行かず、考えたのは賃料だけで、日々の評価額は気にしなかったそうです。農場やアパートなら何十年も静かに持てる人が、株になると値動きに追い立てられてしまう、農場に投資するのと同じように株に投資せよ、とも書いています。例えば住友不動産なら、株の保有は同社という箱を介した都心のオフィス200棟以上の保有です。私も、株を通じてビルを保有しているのだと考えるようにしています。そう考えると、日々の値動きもあまり気にならなくなります。
結局のところ、投資で重要なのは株価ではなく企業価値です。企業価値や投資の前提が変わっていないのであれば、株価や含み損を気にし過ぎる必要はないというのが私の理解です。
Q15. リーマンショック時のリート・不動産株への投資根拠について
【質問】 金融危機の時は割安だと言われておりながら、不動産株がとにかく大きく下落してなかなか不動産株に投資するというような状況ではなかったと思います。シケモク投資家さんが、その頃もリートや不動産株に投資できたのは、株価が一株純資産に比べて割安であった以外に何か根拠のようなものがあったのでしょうか?別の業種として、例えば自動車部品株などの割安な銘柄には、主には食指が動かなかったのでしょうか?
【回答】 ご質問ありがとうございます。正直に申し上げると、リーマンショックの頃にリートに投資していたのは大失敗でした。書籍の序章に書いたとおり、当時はジャパン・ホテル・アンド・リゾート投資法人に現物・信用あわせてほぼ一点集中し、2200万円の損失を出しました。確たる根拠があって不動産に投資できた、という話ではまったくありません。
下落しながらも持ち続けた理由は、ご指摘のとおり「資産価値からみて著しく割安だった」点がメインです。加えて、リートはスポンサーが倒産しても隔離される仕組みである点も考慮していました。いま計算すると、最安値時点では、NAV0.14倍前後、配当利回り14%前後まで売り込まれていたことになります。この水準なら、実物の不動産価格に疑心暗鬼になっていたとしても、相応の安全域があったと思います。ただ、きれいに握り続けたわけではなく、追証のため一部を損切りし、レバレッジをかけたまま保有を続け、他のリートが割安と思えたときには入れ替えもしていました。当時いちばん心配していたのは、増資でした。市況が回復すれば投資口価格は戻ると思っていましたが、このNAV倍率で増資をされると希薄化し、持ち続けても戻らなくなるからです。実際に増資したところもありました。
自動車部品株も、保有資産からみて割安な銘柄は多かったのですが、記憶の限り、あまり買っていません。ひとつは単純に、資産的にみてもっと割安なところが他にあったからです。当時から集中投資の傾向が強く、割安株を満遍なく買う感じではありませんでした。もうひとつは、自動車業界の変革やEVの普及で部品自体の将来がどうなるのか、見通せる能力がないと感じていたことも影響したかもしれません。
特別な予測や知見があったわけではありません。不動産業界に詳しかったわけでも、価格が回復すると確信していたわけでもなく、資産価値と株価の乖離があまりに大きいと考えたので、その是正を待ったことが中心です。書籍でも書いたように、将来を予測するよりも、現在の企業価値と株価の差を見ることを重視しています。カタリストもあまり見ておらず、乖離が大きければ、その乖離自体がある意味でカタリストになるという考え方で、すぐに上がるとは考えず、地道に持ち続けました。
Q16. 銘柄との出会いのエピソードや印象的な体験について
【質問】 過去にこれまで出会った銘柄の中で、特に記憶に残っている「銘柄との出会いのエピソード」や「印象的な体験」などがあれば、お聞かせいただくことは可能でしょうか。
【回答】 ご質問ありがとうございます。 実は、質問者の方が期待されるような「この銘柄との運命的な出会い」というエピソードは、私にはほとんどありません。書籍にも書きましたが、私は20年以上、非事業資産に注目したバリュー投資を続けています。条件に合う銘柄を調べ、企業価値と株価を比較する。投資先はその地道な作業の積み重ねの中から自然と見つかるもので、「偶然見つけた」「ひらめいた」ということはほとんどありません。
私は一発で10倍株を当てる投資法ではなく、以前の質問の回答でも説明した通り、「株価ではなく、自分が算出した企業価値を基準に、ポートフォリオ全体の価値を最大化する」という方針をとっています。最近でいうと、テレビ局各社や不動産株、小型建設株、J-REITなどに集中投資をしてきましたので、それぞれに思い出はあります。ただ、必要とあればダイナミックに入れ替えを行ってきたため、「特定の銘柄で資産が急増した」「特定の銘柄に固執する」ということは起こりにくいのが実情です。ポートフォリオ全体の価値を最大化するために、日々合理的な判断を繰り返すことを大事にしています。
一方、「印象的な体験」でいうと、過去に中部日本放送へ投資していた頃、同社の株主総会で11本の議案を株主提案したことは非常に印象深いです。結果は全議案否決でしたが、株主として会社に真摯に向き合い、長い時間をかけて議案を作成し、株主総会でも口頭で説明したことは良い経験になりました。今は株主提案より、事前質問状を送る手法をとることが多いです。 ただ、株主提案や事前質問状を送ったからといって、会社が姿勢を変えてくれるとは限りません。私自身、過度な期待はしないようにしています。また、あまり入れ込んで働きかけをすると、その銘柄に不合理に固執してしまうリスクもあり、注意が必要です。チャーリー・マンガーも好んで引用したという言葉に、次のようなものがあります。
「豚と取っ組み合いをしてはいけない。泥だらけになるだけで、豚はそれを喜ぶのだから」
企業に働きかけをするとき、私がよく思い出す言葉の一つです。経営権を取得できる規模まで買い増せるなら話は別ですが、そうでない限り、改善の見込みが乏しい会社と無駄な取っ組み合いをしても徒労に終わることが多く、むしろ、より良い投資先を探した方が合理的な場合も少なくありません。
Q17. 金利上昇局面における不動産価格と目標株価の考え方について
【質問】 現在大きくロットを張られている不動産株に関してご質問です。 三大デベロッパーの保有している不動産の時価が年々大きくなっており含み益が拡大していることは認識しているのですが、今後継続して金利が上昇していく局面において、セオリーで言うと不動産の時価が低下(もしくは時価には織り込まれず取引時に顕在化する形で低下)することが考えられますが、こちらに関してどのようにお考えでしょうか。 観点としては2点あり、
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今後の不動産価格をどのように考えられているか
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これを目標株価としてどのように織り込まれているか ご回答頂けますと幸甚です。
【回答】 数年前からX・書籍ともにお読みいただきありがとうございます。私の理解の範囲でお答えします。
① 今後の不動産価格について
私は将来の金利や地価を予想するより、現状を正確に見ることが大切だと考えています。金利が四半世紀ぶりの高水準にある中でも、都心オフィスの期待利回りはむしろ小幅に低下しています(CBRE調査26年6月、大手町3.15→3.10%)。空室率も極めて低く、賃料上昇も力強い。教科書的な「金利上昇=時価下落」は今のところ数字に表れていません。各社の修正BPS成長率も過去5年平均で概ね7~9%と高く、現時点ではNAV成長率が鈍化する兆しは見えていません。ファンダメンタルズはさほど悪くないのに株価は大きく売られている、というのが現状です。
今後さらに金利が上昇すれば状況は変わり得ます。ただ金利と不動産価値の関係は単純ではなく、金利上昇の背景や持続性で影響は変わります。だからこそ私は金利の上げ下げそのものより、キャップレート・賃料・空室率など実際の数字を継続的に確認し、その変化で判断します。なお、オフィスは堅調ですが、中古マンション市場など一部には弱さも見え始めており、不動産市況全体は注意深く見ています。
② 目標株価について
目標株価は現在も書籍と同じ修正PBR1.2倍です。ただし、これは成長率が維持されることが前提です。今後、キャップレート上昇や賃料鈍化でNAV成長率が明らかに低下するなら、前提や目標株価も見直します。一方、現状では修正BPSは着実に成長しており、長期的にはNAV1倍以上で評価されるという考えは変えていません。外部環境の悪化で市場がNAVを一時的にディスカウントすることはあり得ますが、それは市場のセンチメントによる一時的な評価であり、企業価値とは分けて考えています。
最後に、これはあくまで私自身の考えで、間違っている可能性も十分あります。実際、リーマンショック時には、資産価値から見て割安と考えたREITで大きな損失も経験しました。NAVは重要な指標だと考えていますが、市場環境によっては長期間評価されないこともあり、私の見立てが誤る可能性もあります。私の考えを鵜呑みにせず、ご自身でも数字を確認し、納得したうえで投資判断していただければと思います。
Q18. 保有株の調整(下落)時のメンタル管理について
【質問】 三菱地所を5万株ほど持っており2月からの調整に続いて7/31.8/3での約10%の調整でメンタルに来て投げてしまいそうです。 株価を見ない、企業価値を見ると分かっていても脳内では警戒体制に入ってしまっています。TOPIXを買って脳死でと言われてしまえばそれまでですが、先の質問のご回答の他に心掛けていることがありましたらお教えください。
【回答】 ご質問ありがとうございます。 正直に申し上げると、10%の下落はしんどいです。私も同じように感じます。ただ、不動産株ではこの程度の調整は年に数回は起こり得るものですので、最初から「そういうもの」と覚悟しておいた方が、気持ちは幾分か楽になるという理解をしています。
私自身、この20年以上で「もう駄目かもしれない」「終わった」と思ったことは何度もあります。私の投資遍歴は、失敗の歴史でもあります。ただ、感情的には絶望を感じていても、その感情と投資判断は切り分けるようにしています。絶望を理由に株を売却したことは一度もありません。
私が心掛けているのは、やはり株価を見ないことです。見ないでいると、ふと振り返ったときに、「こんなに下がっていたのか」と驚くことすらあります。もし毎日株価を見ていたら、冷静に日常生活を送れなかったかもしれない、と思うこともあります。毎日株価を気にしないだけでも、精神的な負担はかなり軽くなります。私にとっては、とても効果がある方法です。
とはいえ、株価を見なくても、新聞などを眺めていれば「今日は下がっているだろうな」と自然と察してしまい、気が沈むことはあります。ただ、株式投資を続ける以上、こうした心理的負担を完全になくすことはできません。私自身は、会社員に嫌な仕事があるのと同じように、こうした心理的負担も「投資家として引き受けるべき仕事の一つ」だと割り切るようにしています。
私は投資する段階で十分な安全域があることを確認し、「最悪10年保有することになっても構わない」と思える銘柄にしか投資しないようにしています。そういう前提で投資していれば、外部環境が多少悪化しても、投資判断をすぐに変えなければならないケースは多くありません。
また、株価が企業価値に見合う水準まで戻るのに想定より時間がかかることも、ある程度は織り込み済みです。もちろん、長期間株価が低迷すれば効率の良い投資とは言えませんが、それだけで企業価値が失われるわけではありません。企業価値や投資の前提が変わっていないのであれば、慌てて投資判断を変える必要はないと考えています。
前提が変わっていないのであれば、一時的な株価の変動や、それに伴う感情に投資判断を左右されないことは、長期投資では最も難しく、同時に最も重要なことだと思います。
Q19. 幼少時代やプライベートな質問について
【質問】 Q幼少時代どんなお子様だった? (他、学芸会の役、得意なスポーツ、好きなタイプ、得意/苦手科目、クラブ活動、兄弟、YouTubeで流したい動画、習い事、夢、夏といえば、おでんの具、中華料理、寿司ネタ、デートの場所、お餅の食べ方、和食、洋食、屋台ベスト3、読書感想文、野菜、果物、色、花、水着、修学旅行、カラオケ、お化け屋敷など多数)
【回答】 ご質問ありがとうございます。たくさんご質問いただきましたが、個人情報に関する内容も含まれますので、回答できる範囲で、投資や書籍に関連する内容を中心にお答えします。
Q幼少時代どんなお子様だった?
小学校高学年からは成績はほぼオールAで、勉強は比較的得意な方でした
Q鉄棒や跳び箱は得意だった?
鉄棒や跳び箱は記憶が薄いですが、縄跳びが得意でした
Q学生時代得意だった科目は?
小中学校のときは、数学が好きでした
Q学生時代苦手だった科目は?
高校からは数学がやや苦手になり、英語の方が成績が良かったです
Q学生時代のクラブ活動は?
ボート(漕艇)
Q子供の頃習い事してた?
公文はしていましたが、いつも宿題が山のようにたまってしまい、辛い記憶です
Q子供の頃の夢は?
小学校の頃は弁護士、その後はアインシュタインに憧れていました
Q読書感想文は得意だった?
苦手というより、面倒だったイメージが強いです。本格的に読書が好きになったのは、高校・大学時代からです。思い出深い書籍は、「自由からの逃走」(エーリッヒ・フロム)、「ライ麦畑でつかまえて」、「ファインマン物理学」、「コンピュータの構成と設計」(パターソン&ヘネシー)などです。
Qおすすめの愛読書は?
以下の投資本は読む価値があると思います。
「ダンドー」(モニッシュ・パブライ )
「マネーの公理」(マックス・ギュンター)
「バフェットとソロス 勝利の投資学」(マーク・ティアー)
「ウォーレン・バフェット 投資家に贈った全言葉」(アレックス・W・モリス)
「マーケットの魔術師」(ジャック・D. シュワッガー)
「とびきり良い会社をほどよい価格で買う方法」(チャーリー・ティエン)
「わが投資術」(清原達郎)
「株でゼロから30億円稼いだ私の投資法」(遠藤四郎)
「グリーンブラット投資法」(ジョエル・グリーンブラット)
自己啓発書系では、以下がおすすめです。
「積極的考え方の力」(ノーマン・V・ピール)
「道は開ける」(D・カーネギー)
「自分のための人生」(ウエイン・W・ダイアー)
「変な人が書いた成功法則」(斎藤一人)
「いやな気分よ、さようなら」(デビッド・D.バーンズ)
Q20. 配当や将来予測(中計など)の考慮度合いについて
【質問】 配当利回り、配当性向、配当方針(累進やDOE)、優待、将来の業績予測(中計など)はどの程度考慮されますか。資産バリューはいつ上がるかわからないのがデメリットだと思いまして。
【回答】 ご質問ありがとうございます。 まずご懸念についてですが、おっしゃる通り、資産バリュー投資の弱点は「いつ株価が適正水準まで修正されるか分からない」ことです。バリュートラップに陥り、10年間株価が横ばいという可能性も否定できません。そのため、私は配当もそれなりに重視しています。仮に株価が長期間動かなくても、安定して配当利回り2%程度を受け取れれば、その分だけリターンを補うことができるからです。
ご質問の各項目について補足すると、配当利回りは、ピーター・リンチチャートの配当ラインで必ず確認します。累進配当やDOEは株価の下支えやバリュートラップの保険にもなるため、安心材料として見ています。配当性向も、増配余地や持続性の目安として参考にします。ただし、配当利回りが高いだけでは買いません。買う理由は、あくまで企業価値に対する割安さです。そこを一番重視していて、配当は「待つ間の支え」といった補助的な位置付けです。株主優待はほとんど見ません。保有株数に比例しませんし、優待目的で投資しないためです。中期経営計画や業績予想も確認しますが、鵜呑みにはしません。ただ、私が投資する成熟企業は比較的保守的な計画を示すことが多いため、一定の参考にはしています。
そのうえで、私は投資をIRR(内部収益率)で考えるようにしています(書籍P153)。IRRとは、「年率何%のリターンが得られるか」という考え方です。例えば、配当だけでIRR15%を目指すなら、配当利回り5%に加えて毎年10%程度の増配が必要になります。一方、企業価値が時価総額の2倍ある銘柄が3年で株価1.5倍まで修正されれば、これも年率15%前後のリターンになります。どちらも同じ位魅力的な投資機会です。逆に、5年経っても株価が30%しか上昇しなければ、IRRは5%程度にとどまり、投資としては成功とは言えません。インデックス投資でもIRRは7%程度は得られますから、個別株なら最低でもIRR15%は目指したいところです。
つまり、資産バリュー投資といえども、見るべきなのは「どれだけ割安か」だけではなく、「どのくらいの期間で、その割安が解消されそうか」まで含めたリターンです。その中で、配当や配当方針、中期経営計画も重要な判断材料になりますが、出発点はあくまで企業価値に対する割安さです。
Q21. リンチチャートのライン選択(PER・PSR)と目標株価について
【質問】 著書について質問させていただきたいです。回答できる範囲で構いませんのでよろしくお願いいたします。 リンチチャートのラインの選択について、PERやPSRを使われていた以下の3銘柄について、2点お聞きしたいです。著書の特徴として資産価値との乖離に投資するのが基本的になっているので私としてはPBR(または修正PBR)でラインを引くのはよくわかるのですが、PERラインやPSRラインを基準にする銘柄もあり、そこの判断についてお聞きしたいなと感じました。
①東洋電機製造は3本のバンドをPBRで引かれている一方、目標株価はPER18倍を採用されています。図の上ではPBR1倍ラインよりPER18倍ラインのほうがかなり上に来るので、どちらを目標にするかで上昇余地が大きく変わります。ご著書には「PBR1倍割れ解消に向けて配当方針が見直される可能性あり」とある一方で、目標株価はPBR1倍ではなくコロナ前の収益を重視したPER18倍です。株価が戻る先を、資産側ではなく利益側に置かれたのは、何故でしょうか。 資産の裏付けがある銘柄でも利益側を目標にされる条件のようなものがあれば、教えていただきたいです。
②東京都競馬やトラスコ中山は不動産の含み益をお持ちとご紹介されているにもかかわらず、他銘柄のように資産側(PBR)でバンドを引かれていません。実際、自分でPBRラインを引いてみたところ、2013以降はそれなりに形になって機能している気がしました。なぜPERラインを選択されたのか、詳しく教えていただきたいです。
【回答】 ご質問ありがとうございます。 まず前提として、ピーター・リンチチャートでPBR・PER・PSRのどれを使うか、目標株価をどの指標で置くかに「正解」はありません。銘柄ごとに、その企業の価値を最も適切に表す指標が何かを考えることが大事です。
書籍では資産バリュー投資を中心に説明したため、PBRや修正PBRの事例が多くなっています。ただ、実際には、書籍P37の式「内在価値=事業価値-非支配株主持分-有利子負債+非事業価値」に基づき企業価値を見積もっていますので、資産価値だけに着目している訳ではありません。ご指摘の3社は、この式のうち非事業価値よりも事業価値の方が重要と判断したため、PERで目標株価を設定しました。
①東洋電機製造:投資有価証券を多く保有していますが、有利子負債も多く、非事業資産だけに着目した投資ではありません。そのため、目標株価はPBRではなく、コロナ前の収益力を基準としたPER18倍を採用しました。もちろん、PBR1倍割れ是正を前提にPBR1倍を目標株価と考えるのも合理的です。ただ、一般に株価はPERで評価されることが多く、同社もその性格が強いと考えました。
②東京都競馬:賃貸等不動産や大井競馬場の資産価値も魅力的ですが、企業価値への影響ではSPAT4事業が特に重要です。そのため、PERで評価する方が実態に合うと考えました。ただ、資産価値だけでもかなり魅力的なので、修正PBRで評価する考え方も十分合理的です。修正PBRは利益変動の影響を受けにくい利点もあります。
③トラスコ中山:保有する物流施設の含み益も魅力的ですが、売却できるような非事業資産ではなく、本業を支える事業用資産です。そのため、企業価値の中心は事業価値とその成長性にあり、目標株価もPERを基準に設定しました。もっとも、PERは減価償却費の影響で上下しやすいため、PBRやPSRを用いる考え方にも十分合理性があると思います。
結局のところ、私は「PBRで見る会社」「PERで見る会社」と機械的に分けているわけではありません。その会社の企業価値の源泉が資産なのか、事業なのかを考え、最も実態を表す指標を選ぶようにしています。また、一つの指標だけでなく、複数の指標を照らし合わせながら、その企業の本質的な企業価値を考えることが重要だと思います。
Q22. 三菱地所と住友不動産の投資判断(保有比率・乗り換え・決算見通し)について
【質問】 いつもツイートに本を拝見させていただいています。もしよろしければ、住友不動産と三菱地所の投資判断についてご教授いただけないでしょうか。
1.本書を拝読し、シケモク先生の分析手法や考え方については理解できたのですが、そう考えると三菱地所よりも住友不動産の方がシケモク度が高いような気がしています。 ピーターリンチチャートの目標株価も住友不動産が上、修正PBRも住友不動産0.58、三菱地所0.70。PERも住友不動産14.5、三菱地所19.5。エリオットは抜けてしまったようですが、支払い利息も住友不動産372億、三菱地所850億と住友不動産が500億も少ないです。 それにも関わらずツイートを拝見すると、三菱地所の方が1.5倍ほど多く投資されてるようにお見受けします。なぜこのような投資判断に致ったのでしょうか?
2.また本書にあったように保有株式内での株価の差が10%開こうとしています。三菱地所から指標面で割安な住友不動産に乗り換えるようなことは考えていらっしゃらないのでしょうか?
3.今回の1Q決算でどちらも賃料上昇をカバーできており今後の改定でさらに効いてくるものとは思います。しかし、どちらも27年3月期は支払利息の上昇を相殺する程度であり今後の株価、1Q決算をどのようにお考えでしょうか? 保有資産に対する見られ方が変わることでの修正PBR1倍超えへの収束を待つ他ないのでしょうか? 仮にトーチタワーの利益が400億だとしても営利インパクトは13%程度で株価上昇には少し弱いのではという気もしています。
長くなってしまいました。よろしければ考え方をご教授いただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。
【回答】 ご質問ありがとうございます。順番にお答えします。
①三菱地所と住友不動産の保有比率について
まず、「三菱地所の方が1.5倍多く投資している」ということはありません。おそらくXで一部の口座のポジションだけを公開したため、そう見えたのだと思います。現在は公開していませんが、ここ数年は両社が同程度か、住友不動産をかなり多く保有していた時期もありました。ご指摘の通り、修正PBR等の指標では住友不動産の方が割安なことが多かったためです。
ただ、指標だけでは比較しきれません。三菱地所には、①自社株買いなど株主還元に積極的、②財務・格付けが良く金利上昇への耐性が高い(D/Eレシオが低い)、③丸の内を中心に保有不動産の質が高く賃料上昇の恩恵も受けやすい、といった強みがあります。単純に修正PBRが低い方を多く持つのではなく、割安度と企業の質の両方を見て比率を決めています。なお、三菱地所の方が支払利息が大きいのは、海外事業の外貨建て借入の金利水準が影響していると思います。
②住友不動産等への乗り換えについて
これは常に検討しています。住友不動産に限らず三井不動産なども含め、相対的な割安度が大きく変われば入れ替えの対象になります。ただ、書籍P156でも触れたように、少しの差で頻繁に売買はせず、乖離がかなり大きくなったときに検討します。また、含み益のある銘柄を売ると税金が発生し、再投資できる額が減ります。この税コストも考えると、10%程度の差で機械的に乗り換えるのが合理的とは限りません。
③1Q決算と今後について
株価はミスター・マーケット次第で、短期的には読めません。ただ、上昇要因を整理すると、①トーチタワー等の新規開発やインフレにより、NAVが過去数年並みに年6~9%程度成長すれば、3年で20~30%程度の増加が期待できる、②現在30~40%程度あるNAVディスカウントにも解消余地がある、③現在は金利急騰への懸念が株価にかなり強く織り込まれているが、業績が順調に推移して金利への耐性が確認されたり、金利が安定したりすれば、この懸念は和らぐ可能性がある、等があります。今回の1Q決算は、①~③のいずれにもかなりプラスだったと理解しています。各社とも金利上昇の影響は想定以上に軽微で、それ以上に本業の強さが印象的でした。期初予想もかなり保守的だろうとみています。
Q23. リンチチャートの下限ラインの引き方と過去の株価の参照について
【質問】 名著で大変お世話になっております。 リンチャートをEXCELで引いています。 このチャートの下限ラインがもっとも大事と思っていて、このライン付近の株価で買うタイミングとしています。
そんな大事な下限ラインなのですが、引き方がとても難しいです。 なぜなら株価の下限値を結ぶラインと、下限ラインが平行ではないため、主観的に下限ラインを調整しなければならないです。 例えば著書91ページの京阪神ビルディングのリンチチャートですが、2009-2012年の株価に下限ラインを合わせる人もいますよね。 シケモクさんが合わせた2016-2017年の株価のほうが最近の株価であり、最近の企業の業績動向を表しているから、2009-2012年の株価よりもこちらに下限ラインを合わせたと理解してよいのでしょうか?
要は、下限ラインを決める株価に段差がある時は、現在に近い株価に下限ラインを合わせればよいのでしょうか? ご多忙とは存じますがご回答いただければ幸甚です。
【回答】 ご質問ありがとうございます。
結論からいうと、「段差がある場合は現在に近い株価に合わせる」という考え方ではありません。京阪神ビルディングも、2016~2017年の株価に合わせたというより、2008~2012年の株価レンジの中間付近を意識して下限ラインを設定しました(書籍P59)。
2008~2012年は金融危機を含む非常に厳しい時期です。その最安値を通常の下限とするのは、2016年当時の状況からするとやや悲観的すぎる一方、その時期の中間程度まで割安になれば十分魅力的だと考え、書籍のようなラインにしました。
ただし、最安値付近まで下がる可能性を否定していたわけではありません。当時の投資メモ(書籍P45)にも「420円前後まで下落することには覚悟が必要」と書いています。つまり、下限ラインは通常想定する割安圏とし、それを超えるストレスケースは別に考えていました。
一般化すると、私は過去の最安値に機械的に合わせるのではなく、①その安値が通常時か、金融危機など特殊な環境でつけたものか、②その後に業績・成長性・株主還元などが構造的に変化していないか、③過去のどの水準が現在でも参考になるか、を考えて下限ラインを引きます。企業の状況が大きく変われば、それ以前の株価をあまり参考にしないこともあります。
なお、下限ラインに唯一の正解はありません。より機械的にするなら、株価と基準ラインとの乖離を統計処理して±1σなどを使う方法もあり、私も現在は自動化して参考にしています。ただ、厳密にしても株価が下限ラインで必ず止まるわけではありません。
そもそもピーター・リンチ自身はPER15倍のラインを引いていただけで、私のような上下限ラインは使っておらず、よりシンプルな使い方でした(書籍P133)。私は上下限ラインを加えることで、株価が歴史的にどの程度割安・割高なのかを視覚化し、買い時や底値を判断しやすくしています。ただ、各種テクニカル指標と同様、絶対的な判断基準ではなく、過去の株価レンジとの比較による相対評価に過ぎません。
そして、下限ラインを適切に引くには、結局、その時々の企業価値や事業環境を考える必要があります。過去の株価だけから機械的にラインを引くのではなく、書籍で説明した内在価値や定性分析なども踏まえて、総合的に判断することが大切だと思います。
Q24. 集中投資の有効性と分散投資に対する考え方について
【質問】 ワタシも一部資産株にノらせて頂いております。遠藤四郎氏の本も愛読しております。 さて集中投資が優れた手法であるという考えは変わっておられませんか?
インサイダーでない限り、集中投資の成果はまぐれであると個人的には考えております。
【回答】 ご質問ありがとうございます。
集中投資が有効だという考えは今も変わっていません。ただ、常に分散投資より優れているという意味ではありません。グレアムやリンチは分散投資でしたし、どちらが適しているかは投資家によっても違います。
私も、6~7割程度成功すれば良いという感覚で銘柄を選ぶなら、集中投資はせず分散すると思います。また、特定の業界や性質に着目して投資するなら、そこに広く分散すると思います。要は、集中投資も分散投資もどちらが正しいわけではなく、その人の投資法・戦略に基づいて決めるべきだと思っています。
私が集中投資をする理由は、投資機会の魅力度に大きな差があるからです。企業価値、割安度、下値リスクを比較して「これはかなり確率が高い」と判断できる銘柄に大きく投資するのは、自然な資本配分だと考えています。全ての銘柄に均等に投資する方が、私には不自然に感じます。過去の投資で一番多い反省は「もっと買うべきだったのに十分な量を買わなかった」ことで、今は、チャンスが来たときは買えるだけ買う、というのが基本スタンスです。
バフェットやマンガーも集中投資で知られています。バフェットは2008年の株主総会で、少額の資金なら純資産の75%を一つのアイデアに投じてもよい機会に出会うことがあり、自身も何度もそうしてきたと話しています。実際1951年末、GEICOだけで資産の約53%を占めていました。マンガーも同じ株主総会で、分散しなくても安全かつ賢明だと判断できる投資先を見つけることが投資の秘訣だと述べています。遠藤四郎氏の投資法も、かなりの集中投資です。
また、集中投資には投資家自身を本気にさせる効果もあります。資産の大きな部分を投じれば、決算や事業を真剣に調べざるを得ず、失敗した際は深く振り返るため学びも多くなります。逆に銘柄数が増えすぎると注意力も分散し、一つ一つの投資判断もぬるくなりがちです。
日本の著名な個人投資家を見ても、今は分散投資で知られる方が、資産形成期には特定銘柄に集中して大きく増やしていた例が多くあります。資産を大きく増やすという視点では、集中投資の方が簡単で、分散投資の方が難しい気がしています。
以上の通り、私は引き続き集中投資が投資の王道と考えていますが、戦略的な分散投資を否定するものではなく、柔軟に考えています。
Q25. 半導体市場の将来性と半導体関連株への投資判断について
【質問】 もとエンジニアさんとのことですが、現状の半導体市場や将来性についてどうお考えですか?半導体そのものより大元?である装置メーカーに比重を置いて入れてみようかと思うのですがどうなんですかね。既出でしたらすみません。。
【回答】 ご質問ありがとうございます。書籍で半導体エンジニアだったことに触れているので、その経験から何か見解があるのではと思われたのかもしれませんが、期待に沿えず申し訳ありません。
結論からいうと、現在の半導体市場や装置メーカーについては、ほとんど分析していないため、将来性についても正直よく分かりません。
一番大きな理由は、そもそも私の投資法では、半導体関連企業が投資候補に入ってくることがほとんどないからです。私はまず、書籍で説明した内在価値の計算式で企業価値を見積もり、それが時価総額を大きく上回る銘柄を探します。半導体や装置メーカーは将来の成長期待が株価に織り込まれていることが多く、この最初のスクリーニングで対象外になることがほとんどです。そのため、その先の技術動向や将来性まで詳しく調べることもありません。
また、仮に半導体企業を分析するとしても、私の場合は割安株投資なので、企業価値をある程度の確度で見積もれることが最低条件です。将来の成長性が企業価値を大きく左右する一方、その成長性を自分が高い確度で予測できないのであれば、「現在の株価が本当に割安なのか」も判断できません。装置メーカーについても基本的な考え方は同じです。
元半導体エンジニアという点についても、エンジニアだったのは20年近く前です。半導体は技術や競争環境の変化が非常に速い世界ですし、そもそも技術を理解する能力と、その企業の将来の収益や企業価値を予測する能力は別物です。昔の経験を根拠に、現在の半導体市場の将来を語れるとは考えていません。
ですから、半導体株が大きく上昇しても「乗り遅れた」「チャンスを逃した」とはあまり思いません。投資では、自分のユニバースを広げすぎないことも大切だと思っています。上場企業が4,000社近くあっても、その3/4以上を最初から投資対象外にして全く問題ありません。すべての業界を理解する必要はなく、自分が理解でき、成功確率の高い分野だけで戦えば十分と考えています。
Q26. 開発パイプラインの価値評価とAIを活用したIR分析手法について
【質問】 重版おめでとうございます! 3月からの下落局面に耐えるため、何度も著書を読み返えさせていただいています。そこで2点ほど質問させていただいてもよろしいでしょうか。
① パイプラインの株価評価(三菱地所 vs 住友不動産) これまで住友不動産が割安と判断し数万株単位で購入してきました。しかし、2年後に迫る三菱地所の「トーチタワー」竣工後のNAV効果を再計算したところ、両社の修正PBRに思っていたほどの差がないと気づきました。丸の内という強力な資産、積極的な株主還元、低いDEレシオを考慮すると三菱地所の魅力も際立ちます。
一方で住友不動産も、以下の通り高い成長余地を備えています。 • インドBKC 1号館: 坪4万円超・利回り10%超 • インド開発: BKC全体で約14万坪、ワーリー地区で約35.5万坪 • 国内: 2030年代前半予定の第二六本木ヒルズなど
ここで疑問なのが、「現在のNAV割安度」と「将来の開発パイプラインの価値」の評価バランスです。
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現在の資産価値(現状NAV)のみを重視するのか
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10〜15年先のパイプラインまで織り込むのか
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将来案件にはどの程度の不確実性ディスカウントを適用すべきか
住友不動産は第二六本木など大型再開発まで期間が空く一方、インド事業は比較的早期の収益化が見込まれます。時期や性質が異なるパイプラインを抱える両社を、株価指標上でどう比較・織り込んでいるかお教えください。
② AI(Gemini/ChatGPT/Claude)を活用したIR分析手法 大量のIR資料や有価証券報告書をAIに読み込ませて分析していますが、 • 「再開発の持分比率は?」 • 「住友不動産のSOTP算出は?」 • 「完成後のNOI・NAV寄与度は?」 といった質問に対し、資料内の確定数値とAIの勝手な推測が混ざり、不正確な結果が返ってくる課題に直面しています。
AIを用いて不動産会社の複雑なIR分析を行う際、数字のハルシネーション(捏造・推測)を防ぎ、正確なファクトと計算結果を得るための具体的なプロンプトや分析手順(質問の組み立て方)があればご伝授いただきたいです。
よろしくお願いいたします。
【回答】 ご質問ありがとうございます。
まず、一つ目の将来の開発パイプラインの価値に関する質問についてですが、私はこの点について、かなり大雑把にしか考えていません。「神は細部に宿る」という視点で精緻に分析することも大事ですが、一方で「木を見て森を見ず」にならないよう、シンプルな視点で大雑把に考え、大きく間違えないことも投資では重要だと思っています。
そういう視点で考えると、評価の土台は現時点のNAVです。現在保有している不動産の時価は客観的で把握しやすく、指標として非常に有用で、間違いが混入する可能性も低いです。将来の開発パイプラインの価値は、限定的な開示情報から仮定や推論を重ねざるを得ず、正確な計算は難しいため、現時点のNAVを+10%~20%程度押し上げるだろうか、というレベルの大雑把な評価しかしていません。今後の大型開発物件の価値を個別に計算することもありますが、基本的には過去の実績や開発計画を見て、会社として年率平均7%程度の成長を今後10年続けられるかどうか、という視点で緩やかに見ています。住友不動産と三菱地所の比較では、短期的には三菱地所の成長率が上回るかもしれませんが、長期的には過去の実績からすると住友不動産の方が成長率が高い傾向にあり、両者甲乙つけがたいところです。
2つ目のAI活用に関する質問についてですが、私はAIの専門家ではなく、AIの使い方は非常に泥臭いものです。ただ、現時点では、こうした泥臭いやり方こそが、AIから正確な答えを引き出すうえで一番大事だと思っています。定型的なプロンプトは使っておらず、AIの回答に疑問や指摘を何度も繰り返し、数字の誤りなど不正確な点があれば指摘し、資料を追加しながら議論を重ねることで、回答の精度を上げることが基本です。
また、Gemini/ChatGPT/Claudeの3社とも契約しており、それぞれ性格や特徴が違うため、質問内容によって使い分けたり、同じ質問を3つのAIに同時に投げかけたり、一つのAIの結果を別のAIに投げかけて再評価したりと、色々試しています。AIの進化も日進月歩で変化が激しいため、最善のやり方も半年後には変わっている可能性が高く、万能なプロンプトを探すより、その時々で試行錯誤しながら泥臭く検証と改善を重ねることが、今のところ最も確実な使い方だと思っています。